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仙台高等裁判所 昭和33年(ラ)50号 決定 1958年7月04日

抗告人 鈴木三郎

相手方 今野宗次

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は別紙記載のとおりである。

按ずるに、民事訴訟法第六八七条の規定に基く引渡命令は、債務者(担保提供者を含む)に対してのみ発し得べきものであり、第三者に対してはたとえその占有が競落不動産に対する差押の効力発生後に債務者から承継することによつて始つたものとしても、競落人としてはその所有権に基き訴をもつてその引渡を求めるべきであつて、引渡命令によることはできないと解すべきである。抗告人の主張によれば、相手方は昭和三三年一月一日債務者から本件競落不動産を賃借しこれを占有するのであるから、前記説示のとおり抗告人は相手方に対し本件競落不動産の引渡命令の発布を求め得ない筋合である。

されば、抗告人の本件申立は失当として棄却すべく、結果において右と同趣旨にでた原決定は結局相当であり、本件抗告は理由がなく、棄却を免れない。

よつて民訴法第四一四条、第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 石井義彦 上野正秋 兼築義春)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消する

本件を原審に差戻する

との御決定を求める。

抗告の理由

原決定はその理由に於て「云々昭和三十三年九月から入居して占有を始め今日に至つていること、そしてその間使用関係は継続せられ一時退去するとか別段の中絶はなかつたことが窺われこれによれば被申立人は債務者の所謂占有承継人に当らないものと言うべく云々」と説示して抗告人の申立を棄却したものであるが原決定は法律の解釈を誤り加え審理を尽さないで理由を備えない違法があり取消を免れないものと信ずる。即ち

(一) 占有が成立するための要件としては心素と体素を必要とする而て賃貸借契約の不成立のまま漫然として単に留守番として居住する者と賃貸借成立の上賃借人として居住するものとの間にはその占有意思に於てその間逕庭あるは自明である本件に於て相手方は昭和三十二年九月本件家屋に入居したのであるが本件申立書に添附したる協同経営約定書及家屋賃貸借証書中相手方名下に捺印のないことでも明らかな通り相手方は一旦入居の後に於て契約の締結を拒み契約のないまま同年十一月一日から暫定的に喫茶店を開業した、そして仝年十一月二十一日四分六分の割合による利益配当を内容とする共同経営に入る迄はその間共同経営の約定も亦賃貸借の契約もない(この点に関する相手方の陳述は全く虚偽であり鎌田テルの書面御参照乞う)

右共同経営に入つてからもそれは単純な共同経営の契約であつて賃貸と混合されたものではなく従つて利益配当金の内には賃料を包含するものではない(この点に付いても鎌田テルの書面御参照)そして昭和三十三年一月に入つて始めて賃貸借が成立したのである。

即ち原決定は証拠の取捨延いて事実の認定を誤まつた違法がある。

(二) 共同経営の約定若しくは賃貸借契約のないのに単なる留守番として入居している場合共同経営の約定の結ばれた場合並に賃貸借の結ばれた場合等それぞれその居住者の占有意に区別あることは理の当然である。

而して占有は物の所持の外に占有意思をも要件として成立するものであるから仮令同一人が或期間その物を所持して居つてもその間に於て占有意志に変動ある場合その或期間内に於ける占有は決して同一のものではなく占有意思の異なるに従いそれぞれ別個のものだと言わなければならない。

換言すれば外形的には所持の連続があるから占有が依然として失われなかつたものの如く観られるであろうが之を厳密に分析すれば契約の改まる都度占有意思が一応抛棄されて新たに占有を取得していたのである即ち占有権は占有の意思を抛棄するか又は所持を失うかその何れによつても占有権の消滅を来すものであることは民法第二〇三条に明定するところであるが本件に於ては契約の改まる都度相手方の占有意思の抛棄により占有が中絶されていたのである。

本件に於差押後に共同経営の契約が結ばれ更にその後に賃貸借が結ばれたものであるから相手方は競落人である抗告人に対抗し得ない差押後の占有承継人であることは一点疑いを容れる余地もないものであるのに抗告人の申立を棄却した原決定は法律の解釈を誤まつた違法がある。

(三) 原審が契約の衝に当つた鎌田テルを取調べることなく昭和三十二年九月以来入居しているとの相手方の陳述を採り上げ相手方を漫然と差押前からの占有承継人であるとして抗告人の申立を棄却したることは審理を尽さず延いて理由を備えない違法がある。

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